11月 14, 2017

ニュートリノ(お仕事報告と思い出話)

日経サイエンス2017年12月号(10月25日発売)の「特集:ニュートリノの物理学」内「反物質が消えた謎 米国が挑むDUNE実験」の翻訳協力を担当しました(記事末尾にクレジットがあります)。

担当した記事は米国の実験ですが、同じ号には日本の実験についての記事もあります。


ニュートリノには思い出があります。2002年、小柴昌俊東大名誉教授が「宇宙ニュートリノの検出」でノーベル物理学賞を受賞されました。私は当時、科学技術振興事業団(JST、現科学技術振興機構)に勤務して、科学技術文献情報データベース作成をしていたのですが、上司から「ニュートリノについて文献調査をまじえたレビュー記事を書くように」と言われました。それがこの記事です。

ノーベル物理学賞受賞小柴昌俊氏の業績
情報管理 Vol. 45 (2002) No. 8 P s1-s5

当時は、データベース収録用に、海外の物理学分野の論文を読み、日本語で要約文(抄録)を作成する仕事をしていました。ただ、大学時代は地球物理学専攻だったので、素粒子物理学はほとんど未知の世界。この記事を書くのにも、かなりの数の論文を読んだ記憶があります。

ただ、大人になってからの勉強は、学校でのように正攻法でやらなくてよいのがいいところで、分かりやすい一般向けの解説記事や入門本から読み始めてみると、ニュートリノの、そして素粒子の不思議さに夢中になり、仕事そっちのけで勉強していました(今思えば幸せな環境です)。

記事では、データベース(JICSTファイル)におけるニュートリノ関連論文数の推移の経年変化をグラフ化したりしました。

情報管理 Vol. 45 (2002) No. 8 P s1-s5より引用 http://doi.org/10.1241/johokanri.45.s1
 当時はニュートリノ質量発見が大きな話題でしたが、今回訳した記事によれば、最近はそのわずかな質量をどのようにして獲得しているのか、という点が研究の焦点になっているとのこと。質量獲得のしくみが解明されれば、ニュートリノの性質のみならず、まだ知られて「新しい物理学」の発見につながる可能性があるそうです。

物理学を大きく変えるかもしれない粒子が、ほかのどんな物質とも相互作用せず、今この瞬間もわたしの体をどんどん貫通しているとは、なんとも不思議な気持ちになります。